2015年7月刊『教育改革はアメリカの失敗を追いかける 』山本由美 著

『人間と教育』2016年春季号

 学力テスト体制は、競争教育に拍車をかけ、多くの学校が授業を過去問練習にあて、子どもたちの学ぶ喜びや新たな「知」との出会いの楽しさを奪っている。教員にしても、「わかった」という子どもの瞳が輝く授業よりも、得点力をアップするためのドリル学習に追われることになる。安倍「教育再生」の本質が何なのか、教職員も保護者も気付かないうちに、今までの教育が覆されていく。安倍「教育再生」には、教職員や保護者・子どもの「願い」は反映されず、国家の求める「人材」養成が求められている。
 本書には日本が英米のモデルを後追いする形で新自由主義教育改革を進めてきた経緯が、具体的に書かれている。英米では、学力テストの「結果」を政府が公表することによって自治体や学校間の競争をうながし、テスト「結果」によって学校や教師を評価する。この評価によって、政府は教育を強力に統制し、学校選択制によってできあがる小規模校を統廃合によってコストダウンするとともに、大規模校を中心に学校を序列的に再編するしくみをつくってきた。その目的は、グローバル経済が求めるエリートと非エリートの早期選抜と、企業にとって新しい市場を創設する機会を提供することである。例えばアメリカでは、公設民営型のチャータースクールが、多くの従来の公立学校にとってかわっているという。
 この後追い新自由主義教育が、日本においてはどのように進められてきているのかを、本書は明らかにするとともに、アメリカの新自由主義改革が崩壊しつつある現状に迫る。筆者は、学力テスト拒否と学校統廃合反対運動が進むシカゴに、数回にわたって赴き、保護者と教職員の結び付きに注目する。
 新自由主義教育改革の対抗軸をグローバルな規模での対抗勢力の連帯に置く筆者の視点は、世界規模での反対運動に裏打ちされたものである。日本の教育の現状と展望を示してくれる1冊である。

 

『しんぶん赤旗 』2015年9月27日   評者 中田康彦(一橋大学教授)

 小中一貫教育策のゆくえを追いかけてきた著者が、『学力テスト体制とは何か』(2009年)に続き、学力テスト・学校統廃合・小中一貫といった政策の最新動向と、その背後にある新自由主義の潮流をわかりやすく解き明かす。
 日本は競争をあおる前期新自由主義の段階から、停滞期を経て、グローバル資本に資源を集中するために国家が発動する後期新自由主義の段階に入っている、と著者はいう。本書の第4・5章でアメリカの教育改革をみるのは、後期新自由主義の段階に入っているアメリカの改革が、日本の教育改革の未来をみるうえで示唆的だからである。
 日本がアメリカの改革動向を追いかけるのは今に始まったことではない。免許更新制や成果主義給与の導入もそうだった。アメリカで教育改革の失敗が見直され、改革のふりこが逆に動き始める頃になって、アメリカの改革を追いかける日本。アメリカの教訓を生かせというのが日本の改革の担い手に向けたメッセージなのだろう。
 教育改革論議はなんだか難しそう…と感じる人も心配は不要である。『ベストスクール』(02年)で発揮された、日常を切り取る筆致は、本書にも生かされている。今年2度にわたり訪米した際の最新情報も含め、教育改革に向き合う人々の息づかいが手に取るように感じられる。
 本書は、教育改革批判に終始した本ではない。「日本においては、理論的にはやや古典的とも思われる教師と保護者の共同が、今アメリカでは新自由主義教育改革に対する対抗軸となっている」という。足下を掘り直せば、泉は湧くにちがいない。

 

「緑の風」多摩住民自治研究所 2016年2月号 評者 鈴木望(多摩研事務局)

教育改革のゆくえを見定める

いま日本で急速におこなわれている教育会各。学校統廃合、学校選択制、小中一貫校、道徳の教科化、全国学力テスト、ゼロトレランス、学制改革、教育基本法「改正」…、様々な問題が取り上げられていますが、その点と点を線にして、全体像をみせてくれるのがこの本です。この教育改革は、グローバル経済が求める教育システムへの変換と言ってよいものです。
日本でこの教育改革を進めていくとどうなるのか。本書では、新自由主義教育改革の全米先行ケースでもあるシカゴ市の現状を確認することで、その答えを導き出しています。
簡単に言ってしまえば、エリートと非エリートを早期に分け、非エリートに対する管理体制が強化され、ますます貧富の差が広がっていきます。さらに公選制の教育委員会も市町の任命制となるなど、教育行政への市長の権限が拡大し、主権者としての声を出す機会が失われていきます。
すでにそのような状況になっているシカゴ市ですが、それらの問題に対して拒否や反対をする動きが保護者や教師たちを中心に拡がっている事実もあります。それらの運動の現状や経緯についても、本書では詳しく取り上げています。
また、新自由主義教育改革のダメージをどう解消していくのか、その糸口はどこにあるのか。最終章では、それらについても触れています。
いま教育会閣の真っ直中にある日本。その現状を把握し、またそれがいかに危うい状況であるかを知り、改善・修正・補足または方向転換していくかを考えるのに大変重要な一冊です。