2011年6月刊『水俣の教訓を福島へ』原爆症認定訴訟熊本弁護団 編著

 

『月刊 保団連』2011年12月 No.1079 評者:熊本県保険医協会・上塚高弘

 福島第一原発からの放射性物質の漏出はついにレベル7という最悪の事態を招き、周辺住民の健康をはじめ、多方面への影響が危惧されるところとなった。政府は今後30年間にわたって放射線の影響調査を行うと発表したが、原爆症認定や水俣病訴訟で、常に被害を矮小化して見せようとする政府の方針を知っている人たちが、今回もそうあってはならないと、政府に正確な調査を求めて声を上げた。このブックレットは、2011年7月2日に熊本市で行われた緊急シンポジウム(主催:原爆症認定訴訟熊本弁護団/共済:水俣病不知火患者会、ノーモア・水俣訴訟弁護団)の記録である。
 パネリストは琉球大学名誉教授・矢ケ崎克馬、熊本日日新聞論説委員編集委員・山口和也、平和クリニック院長・牟田良雄、協立クリニック院長・高岡滋、元熊本学園大学教授・原田正純の5氏で、弁護士の三角恒氏がコーディネーターを務めた。
 原発被害は健康被害のみならず、農水畜産被害、故郷喪失など多方面に亘っている。原爆症認定や水俣病訴訟では、"御用学者"を使って事実を歪曲してきたが、結局それは自体の解決を遅らせることになった。
 原発被害に関しては、ありのままに報告することが大事であるとして、以下の「7.2緊急シンポ宣言"ノーモア・ヒバクシャ""ノーモア・ミナマタ"の思いをフクシマへ」が出された。
○地震は天災だが、原発事故による放射線汚染は人災である。
○健康調査の結論が出るまで安全宣言をすべきでない。
○迅速かつ全面的に情報を公開すべきである。
○東電と国の責任で損害の全面補償をすべきである。
 原発被害はどこまで広がるか判らないし、今後も何処かで起こる可能性がある。このブックレットが多くの人に読まれ、政府や企業のあいまいな調査、いい加減な責任の取り方を許さない世論の形成がなされることを望む。

 

『女性のひろば』2012年1月号 評者:熊本・くすのきクリニック院長 板井八重子

福島で十分な健康調査せよ

 福島原発事故から4カ月を経て、放射線による健康被害にかんする情報が交錯する7月2日、熊本市内の熊本学園大学で「緊急シンポジウム 水俣の教訓を福島へ」が開催され、情報を求める300人以上の市民で会場がうまり、関心の高さを示した。主催は、原爆訴訟熊本弁護団。水俣の教訓をいかして福島で十分な健康調査をすべきだという強いメッセージをこめたシンポジウムであった。シンポジウムの内容はすでに『水俣の教訓を福島へ──水俣病と原爆症の経験をふまえて』(花伝社発行=写真)として出版された。多くのかたにぜひ読んでいただきたい。

増え続ける水俣病患者

 今年の5月1日、全国で水俣病にとりくむ6名の医師(筆者含む)が連名で環境大臣に対して、「水俣病被害者の救済に関する提言 とりわけ健康調査について」を提出した。読者のみなさんは、水俣病が公式に確認されて50年以上がたった現在、何で今ごろ健康調査なのか? 今ごろ調査して何がわかるのだろうか? と疑問をもったことだろう。みなさんには、2011年10月現在、メチル水銀による健康被害の救済を求める住民が5万6000人を超えて存在し、その数は増え続けていることを知ってほしい。

 どんな症状がメチル水銀による健康被害なのか? その被害が発生した地域の範囲はどこまでなのか? 何年まで被害が発生しているのか? 残念ながら行政は、全被害者を明らかにし救済するという立場を取ることはなかった。2004年にも熊本県が不知火海沿岸住民47万人を対象にした健康調査の提案を拒否している。

 一方で水俣病支援県民会議医師団(初代団長・上妻四郎、現団長・藤野糺)は住民の健康調査を行い、実態に基づくメチル水銀による健康被害の病像を明らかにしてきた。その病像はこの間幾度となく裁判所に認知され、今日における患者救済の基準となっている。この病像を基準に自覚症状と神経所見を調べれば、被害を明らかにできると考えている。

 
放射性物質による健康被害は?

 福島第一原発から放出された放射性物質による住民の健康被害の調査にかんしては、福島県と福島医科大学の共同で、健康アンケート調査・甲状腺エコー検査が始まっている。放射性物質による健康被害は、ガンマ線による「外部被曝」とアルファ線・ベータ線による「内部被曝」が問題になる。国際的規模でいえばICRP(国際放射線防護委員会)は内部被曝を無視し、ECRR(欧州放射線リスク委員会)は内部被曝を重視する立場を取っている。原爆症認定訴訟弁護団によれば、日本政府は同訴訟で「内部被曝は無視してもよい」立場をとり続けている。

 福島の原発事故に関連してこれまでに検出されたと報道されている放射性物質は「ヨード」と「セシウム」とされている。それ以外の放射性物質はないのだろうか?

 情報を公開すべきである。内部被曝を考慮した調査が果たして行われるのだろうか? 福島から熊本に子どもとともに疎開してきたある母親は、「県の調査は信頼できない」と不信感を募らせている。水俣では被害を受けた人が抑圧され続ける時代は終わった。水俣を教訓に、福島では住民の心身の健康を守るための調査を行うべきであることを行政は肝に銘じるべきである。

 

『住民と自治』2011年11月号 評者:弁護士 久保田紗和 

本書は本年7月2日に熊本市内で開催されたシンポジウムの内容をブックレットとしてまとめたものです。「水俣病と原爆症の経験をふまえて」とのサブタイトルにあるとおり、水俣病や原爆症訴訟の経験を、福島原発事故から派生する被害者救済問題や、現在そして将来において発生する様々な問題に生かすことを目的としています。内容としても、第一部でパネラー報告(琉球大学名誉教授・矢ヶ崎克馬氏、熊本日々新聞論説委員・山口和也氏、平和クリニック院長・牟田喜雄氏、協立クリニック院長・高岡滋氏、元熊本学園大学教授・原田正純氏)、第二部でリレートーク、第三部で特別寄稿という、わかりやすく充実したものとなっています。
公害の原点と言われる水俣病においては、健康調査が実施されてこなかったために、被害が矮小化され、公式確認から55年以上経過した今でもなお、多数の潜在被害者が残されているという状況にあります。また、原爆症の問題においても、国は、内部被曝の影響を考える必要なないとして、健康影響に関する調査を行わず、被害を小さく見積もり、未だに原爆症と認定されないまま放置された被害者が多数存在します。
本書では、被害の全貌を明らかにすることが、全ての被害者の救済のため、そして加害責任の所在とその重さを明らかにするために不可欠であるとの観点から、被害を徹底的に調査・解明することの重要性が示唆されています。またそのような具体的な経験として、民間医師や弁護士、科学者、地域住民の協力のもと、2009年に不知火海沿岸で実施された水俣病の1000名健康調査として熊本県内の被爆者300名を対象に実施された健康調査(プロジェクト04)についての経験が語られています。このような経験における調査結果や手法についても、福島原発事故に生かすべき視点が示されています。
また、本書は、水俣病と福島原発問題との共通点・相違点を明らかにし、福島原発事故において今後生じうる差別の問題や地域の問題への提言を行うと共に、正確な情報伝達の必要製など、福島原発事故における問題の捉え方の大きな視点を提示するものとなっています。
未曾有の人災ともいえる福島原発事故によって生じた被害を、現在そして将来にわたって考える上で、また既に動き出した損害賠償問題や健康調査の実施を考える上でも、本書に示された姿勢や視点が被害者救済のための礎になるものと考えいます。
福島原発事故によって被害を被られた各地域の方々だけでなく、日本全国、1人でも多くの方に本書を手にとって頂きたいと想います。

『週刊金曜日』866号 2011年10月7日号 

水俣病と愚直に向き合ってきた医師や弁護士、新聞記者らが長年の調査結果を元に論議。皆に共通するのは「もう二度と」という想いだ。

『西日本新聞』2011年9月11日 (朝刊)

『水俣の教訓を福島へ』  原爆症認定訴訟 熊本弁護団編著  (花伝社・1050円)
 東京電力福島第1原発事故にミナマタの教訓をどう生かすか-。熊本市で7月に開かれた、水俣病と原爆症の経験を踏まえ原発事故を考える緊急シンポジウムの記録集に、特別寄稿を加えた。
 3部構成。1部は水俣病の研究者で医師の原田正純・元熊本学園大教授や、被爆者の調査に取り組む平和クリニック(熊本市)の牟田喜雄院長など5人の報告をまとめた。2部は5人によるリレートークや会場からの質問に加え、シンポジウムのまとめを掲載。政府の国民に対する情報提供や被害を過小評価している問題点、長期にわたる健康調査の必要性などを指摘している。3部は熊本県原爆被害者団体協議会の中山高光事務局長や水俣病不知火患者会の大石利生会長などの特別寄稿を載せた。

『朝日新聞』2011年8月26日  地方版(熊本)

水俣の教訓 福島で生かせ

 水俣病患者や原爆被爆者の救済を手掛けてきた県内の弁護団が、ブックレット「水俣の教訓を福島へ」(花伝社)=写真=を出版した。水俣病では被害を過小評価したことで事態の深刻化を招いたとして、福島県の放射能汚染では住民の健康調査に長期的に取り組むことなどを訴えている。
 ブックレットは7月に熊本市の熊本学園大であったシンポジウムを再構成したもの。水俣病患者や被爆者による訴訟が現在でも続き、問題が長期化した背景には、救済を訴える被害者を切り捨ててきた歴史があると指摘。この反省を、今回の放射能汚染問題に生かすべきだと主張している。
 シンポでは学者ら5人のパネリストが出席。この中で原田正純医師は、原発事故で「放射性物質は海に流れれば薄まる」と一部の学者が主張したことに対し、「薄まった物質は食物連鎖によって濃縮される。水俣の教訓がまったく分かっていない」と批判している。
 ブックレットをまとめた原爆症認定訴訟熊本弁護団の寺内大介弁護士は「失敗を繰り返さないためには、きめ細かな健康調査を行うことが最も大切だ」と話している。

 県内の主要書店で千円(税別)で販売中。問い合わせは熊本市のたんぽぽ法律事務所(096・352・2523)へ。